2004年09月25日

インクのない世界

必要に迫られてプリントしなければならない事態に陥ったのだが、最近交換したはずのインクが何故かなくなっていた。

陰謀だ。買い置きのもなくなっていたので、駒込あたりの電器屋にインクを買いに自転車を走らせたのだが、個人経営の古い電器屋だったからかプリンタ用インクはおいていなかった。もう一軒にいったら置いてはあったけど、自分のプリンタに対応しているインクがなかった。陰謀だ。
 しかし困ったことに私が住んでいる付近の電器屋はその二軒しか知らない。非常に困る。とりあえず駅の回りの商店街を巡ってみるのだが一軒も見つからない。そのままだらだらと南下しながら探すのだが一軒もない。しかも坂を上り下りするハメに陥る。運動不足のみには疲れる。交番の前まで来てしまったので、街のプロフェッショナルであるお巡りさんに電器屋の所在を尋ねる。「いやあ、このあたり基本的に電器屋はないよ」そうですか。
 とりあえず、多少離れてるけど一番近いところを教えてもらって行くことにする。行く手に坂がある。下りだ。だが、一度下ったならば上らなければならないという非常に物理的な現実が立ちはだかっている。しかし虎穴に入らずんば虎子を得ず。坂を下らねば電器屋はあらず。下る。下る。
 下る。下る。あとでこの高さを上らねばならないと考えると気が滅入るが、とにかく下る。教えてもらった住所に着く。ムム、見つからない。探す。が、見つからない。この素晴らしい節穴を持ってしても見つからない。なんと言うことだ。国家権力の犬もグルだったとは。この陰謀が当局のものであると確信する。この善良な市民を狙うとは、いったい何故だ。
 一通り探したあと、諦めて戻ってきた坂を上ろうとするが、そのときふと田端700Mの看板が目に入る。知らない道を行くことになるが、来た道を戻っても得るものはない。行くぞ。走っていると寂れた商店街にさしかかる。シャッターの閉まった建物がやたらと目に入る、地方都市のような商店街だ。おお、あれはプリンタインクじゃないか。発見したが、エプソンのものしか置いていない。この写真館はぬか喜びをさせたことで私の復讐ノートに記載された。千年以内につぶれるはずだ。
 ガッカリ感を胸に走る。電器屋を見つける。自動ドアが開かない。しまっているのかと帰ろうとすると、店の奥からオヤジが走ってくる。開いた。何故開かなかったのかと不思議がっていた。それはそれとしてプリンタインクはなかった。そんな陰謀の香りは強くしていたので、もうどうでもいい。田端までいって線路沿いを駒込まで行こうと、適当に坂を上ると、眼下に商店街ぽいものが見える。もしかしたらそこに電器屋があるのかもしれないけど、もう降りる気が起こらないので駒込に戻ることにする。走る。走る。適当に走っていると、駒込までついた。いがいと地図がなくてもどうにかなると、すこし自信が出る。しかしかなり疲れている。運動不足が体を蝕んでいる。そんな生物の最適化機能に怒りを覚える。これも陰謀か。
 思いつくところを一通りいったが見つからなかったので、うちの近くで一番大きな駅である、王子駅に行くことにする。現在地からうちを挟んで反対側だ。知らない道を行くことでうまく上り下りをさけることで天狗になる。この素晴らしい頭はまるでカーナビがついているようだ。しかしそれは気のせいだ。
 素晴らしい下り坂を下ることで王子駅に着く。でかい。さすが王子だ。最初からここに来ておけば良かった。すこし後悔する。だが、ここなら間違いなくプリンタインクの置いてある電器屋の一軒や二軒や三軒や四軒あるに違いない。そう確信する。店が連なる通りがいくつかあるので順番に見る。無い。無い。無い。おかしい、こんなはずはない。そうだ、きっと疲れているから注意力が散漫になっているんだ。もう一度見る。無い。無い。無い。
 諦めて戻ろうとすると交番を発見する。尋ねる。「ああ、電器屋ならあの通りをずーーっと行ったところにしけた小さい店が一軒あるよ。いやあ、ここ駅は大きいけど電器屋は全然無いんだよね。二年ぐらい前にはあったけどつぶれちゃったしね。池袋とかに行かないと」そうですか。
 仕方がないので池袋に行こうかと思うが肉体的にも精神的にもなんか疲れてしまい、諦める。でもそのまま帰るのも悔しいので王子の本屋で漫画を一冊買っていく。坂を二つ登り、家にたどり着く。疲れた。とりあえず買った漫画を読む。つまらない。疲れてベットに倒れる。寝る。
 起きる。結局インクを買えなかったのでプリントできない。明日池袋に行こう。