クトゥルーもののライトノベル
梅雨が明けて本格的に夏だし外は太陽が発狂しているようなので、こんな日は家に籠もるに限ると、週末買い集めたクトゥルー物のラノベを読んでいた。
クトゥルーはアメリカの小説家ラブクラフトが20世紀初頭ぐらいにかいたオリジナルの神話群。
世界には人間に理解できないいろんな怪異な存在があって、そういう物を偶然垣間見てしまった物が発狂したり何かするというのを手をかえ品を変えしている小説群。広くて大きい宇宙を鑑みれば人間は塵芥のようだなあ! と言うラブクラフトの宇宙観の現れという話を聞いたことがあるような気もしないでもない。科学時代の神話ですね。
アニメや漫画等を見てる誰もが通る道という噂もある。
でクトゥルーをネタにした物は数え切れないほどあるんだけど、最近のラノベの萌え系でクトゥルーを扱うのはニャル子さんからかなーとか思うんですがどうなんだろう。デモンベインも割とそういう所はありますが、魔導書が女体化以外は基本的に化け物は化け物だしなあ。あれ、でもクトゥグアとかイタクァとかはパンツ丸出しの女体化してたな...化け物だけど。
それはともかく、去年ぐらいからそういった萌えラノベでクトゥルーを扱った物が結構あるというのを一昨昨日ぐらいに発見したので、ネットで見つかった物を読んでみたので以下感想、ネタバレ有り。
1.うちのメイドは不定形
殆ど家にいないけど、世界的に有名な考古学者で探検家の父親が、南極から大きな荷物を送りつけてきた。中に入っていた妖しげな物体Xを添付の手紙にあったようにお湯につけたら、メイドさんが出てきたよ!
という何か百万回ぐらい聞いたことがあるような道具立てで始まる落ち物系なんだけど、どうしてなかなか面白かった。タイトルとあらすじから分かるように元ネタは「狂気の山脈にて」にでてくるショゴスなんですが、ショゴスがメイドさんになる! というアレな字面からは意外なほどそれっぽいと言うか、説得力がある。テケリさんが語る過去は「狂気の山脈にて」にある歴史をショゴス側からみたものなんだけど、ショゴスが女の子の形をしてが人の家でメイドとして働くことに確かな背景を与えている。ナイアルラトホテップと違って、ショゴスだったらありそうだなあと云うのもあるしね。
というわけでカワイイ人外が突然家に来たよ! と言うだけの小説ではなく、ラブクラフトの小説をしっかりと踏まえた上でその範疇の中で萌えラノベになっていて個人的には凄く良かった。
本筋の遠坂みたいなキャラが出てくるところも鉄板のドタバタコメディで外さない。
今回一番の収穫。
2.風にのりて歩むもの
お嬢様学校に通う三人の少女が、開演前の遊園地でローラーコースターに載ったのだが、なぜか戻ってきたコースターには二人しか載っていなかった。園内をいくら捜索しても神隠しにでも遭ったかのように影も形もない。走るローラーコースターからどうやって女の子は失踪したのか。同時にもう一人の少女の命が狙われ始める。真相を探りながら追っ手から逃げる、探偵のオッサンとちょっとミステリアスな少女の逃避行。
という感じでクトゥルー物というよりは、ミステリー、サスペンスだった。ローラーコースターも開かれた密室という道具立てだし。タイトルのとおりイタクァによるものであることが疑われるんだけど、真相は果たして...という感じで全然萌えラノベではない。
映画的な道具立てで読ませる、なかなか悪くない小説だった。
3.魔界少女ルルイエ・ルル
風呂の下水を通って、かわいい女の子が突然家にやってきた! 親族みんな魔法少女の格好をした少女に平身低頭、あれ!? と思ったら実は女の子はクトゥルーの娘で、この町はいわば日本のインスマウス。昔から住んでいる人たちは実はみんなクトゥルーの信者だった。クトゥルー復活の足がかりにまずはこの町から征服だ! という、身じろぎするだけで世界中の感性の鋭い人を発狂させる邪神にしてはおいおいエクセルサーガかよという市街征服的スケール感。実際やっていることは、学校を支配している女の子を眷族にしたり暴力団を壊滅させたり、ハスターの娘と戦ったり、基本町内レベル。次の巻へ向けてわかりやすく引いていたけど、続き出るのかな。
どうでもいいけど自分の両親が、年端も行かない女の子に「ルル様!」とかいいながらあがめまくっているの見たらドン引きというか、すごく悲しい気持ちになるだろうなあ。とカルトの子らを読み返しつつ思った。
ちなみにエロラノベだが思ったよりエロシーンはなかった。
4.やむなく覚醒!! 邪神大沼
平凡な高校生だと思っていた主人公の元に「初心者らくらく邪神マニュアル」が送られてくる。実は自分は邪神だった...。しかたなくマニュアルを読みながら立派な邪神への道を歩み出すという、現代のマニュアル社会への警告的では全然無い話。
本筋は使い魔の悪魔の女の子やグールや天狗がでたり、代々和菓子やでかつ勇者をやっている家の女の子が戦いを挑んだりというドタバタコメディなんだけど、話の合間合間に挟まれる邪神マニュアルがなかなか秀逸。邪神チェックシートや、スターターキット、邪神の一日や、成功している邪神へのインタビューなど何処かで見たことのあるようなものが、何か間違った文脈で出てくるのが面白い。
ではこれがクトゥルー物かというと、人間の信仰心が邪神の力に影響を与えるという設定があるので間違えなく違うと思う。インタビュイーにクトゥルーがでているけどね。
信仰心が神に力を与えるというのは良く見る設定だけど、超常的な存在と人間の距離感というか彼我の存在の差というのがクトゥルーのキモだと思うので、そこをハズしていたらクトゥルー物じゃないよなあと言うか、そうだと自分が勝手に思っていただけのような気がしてきた。
というわけで個人的には今回読んだ中では、うちのメイドは不定形が一番良かった。
そういえばクトゥルーものを読んでいると思うけど、作中でのラブクラフトやその諸作品の扱いって難しいよなあ。ラブクラフトは単なる作家ではなかった! みたいな扱いが多いけどどうなのかなーと思う。個人的には、ラブクラフトに言及する必要ないと思うんだけどなあ。デモンベインは無かったような気がするけど、どうだったかなあ。思い出せん。
個人的クトゥルー系ラノベのランキング
1.ラプラスの魔 思い出補正あり。再販したのにまた絶版したのか
2.デモンベイン 軍神強襲 古橋秀之の中でも傑作だとおもう。
3.ウチのメイドは不定形
以下略
クトゥルー系のラノベなんて読んでいる数が少ないのでランキングする意味もないな。調べたところ、ネクロームとかクトゥルーオペラとか妖神グルメとかハスタールとか色々あるみたいだけど、どれも絶版とのこと。かつてDが好きだった身としては、妖神グルメがかなり気になる。ニャル子さんは読んでる。
ラノベの範疇外だと、アーカム計画が一番好きだなあ。あれは傑作だと思う。ロバート・ブロックのクトゥルー作品はだいたい面白かった覚えがある。あとタイタス・クロウのド・マリニーの時計、地を穿つ魔は良かった。タイタス・クロウの帰還はちょっと辛かったけど。
クトゥルーラノベは気が向いたらまたチェックしよう。