これは面白い。まだ一般に認められたわけではない物理学の最先端で研究されている面白いアイデアを12個取り上げるポピュラーサイエンスの本。物理学界での認知度合いはいろいろだけど、どれもへえ、とういか感嘆するというか、笑ってしまうようなタイトル通りの話だった。
こういった難しい話を素人にわからせる(わかった気にさせる)著者の実力も確かな物で、わりあいすらすらと読めた。ガリレオの指に挫折した僕にも。
こういうのを読むと物理って面白そうだなあとは思う。勉強はしないんですが。適当に纏めてみたけど、物理がサッパリなので色々間違ってるかも。
□第一話 逆流する時間
時間の矢はエントロピー増大の法則と結びついて語られることが多い。それはビッグバン宇宙では初期条件が決まっていて最終条件が存在しないからである。一方最終条件が存在する宇宙、例えばビッグクランチ宇宙では最後の状態に制約がある。収縮していく宇宙では、膨張していく宇宙の人間から見ると、時間が逆に進んでいるように見える。
ここでは、そういった二つの領域が、同時に存在する可能性があるという研究が述べられている。それぞれ逆方向に向く時間の領域間で相互作用が十分弱ければ、二つの領域は共存しうる、というシミュレーション結果が出ているそうな。
すなわち、膨張宇宙が収縮に転じるところでは、ビッグクランチとビッグバン、それぞれから由来する時間の矢が同時に存在するのではないかということらしい。
これはあれだ、イメージ的にはベイリーの「時間衝突」みたいな話だ。きっと。
□第二話 多世界解釈と不死
量子力学の多世界解釈が、デコヒーレンスという概念が出来ることで多数の物理学者に指示されるようになっていると言う話なんだと思うけど、デコヒーレンスがよくわからなかった。外界の線引きとか。色々。
□第三話 波動関数の謎
超流動状態のヘリウムに電子を一つ打ち込むと、電子がヘリウム原子を押し退けて「電子気泡」を形成する。電子に適当なエネルギーその他を与えて、波動関数ががダンベル型になるようにしていくと、気泡は引き延ばされていってそのうち気泡は分離する。すなわち電子が分離されてしまう。すなわち波動関数は単なる計算装置ではなく、実体そのものである可能性がある。凄いことなんだろうけど門外漢には。
□第四話 タイムマシンとしての世界
一般相対性理論と、量子力学の統一理論の話。多くの場合量子力学から一般相対性理論が導き出せるようになるだろうと言われるが、逆をやろうとしている理論。
電子などの亜原子粒子には例外なく時間のループが備わっている。つまり粒子の状態は、過去と未来の両方に影響を受ける。つまり未來からの影響もうけるから、粒子の状態は、確率的に決まるのではないか。どう考えると、決定的な一般相対性理論から確率的な量子力学を推測することが出来、統一理論を作り出せるのではないかというはなし。また、状態が光速を越えて伝わる量子的結びつきもこれで説明できるらしい。
時間ループによる因果律の侵犯が巨視的な世界に影響を及ぼさないのは、それが事象の地平線の向こうに隠されているから、らしい。
□第五話 五次元物語
四つ目の次元という余剰次元を考えることで、重力を説明できたように、さらなる余剰次元を考えることで電磁気力も説明できるのではないか。また、さらに全部で10次元を考えれば四つの力が全て説明できる、というひも理論とかの話。
ちなみに余剰次元は、非常に小さく巻き上げられているそうな。非常に小さく、というのは一般的にプランク長と言われているが、もっと長くても存在する可能性もあり、もしそうだとしたら現在の技術、いま欧州で作られているLHCでも観測できるかも知れない、という話。物質波のエコーによって生じる粒子が観測できればいいらしい。あとはなんか超力のこととかいろいろ
□第六話 天空のブラックホール
クェーサーの長期的な高度変化は、地球とクェーサーの間に存在する小型冷蔵庫大のマイクロブラックホールの重力レンズ効果による物だろう、と言う話。その生成は宇宙誕生後のクォーク・ハドロン相転移時に出来ると考えられ、ソレによって出来るブラックホールの大きさを計算すると、丁度良いという。また、暗黒物質もそれで説明できる。
□第七話 鏡の宇宙
ニュートリノなどに見られる「左右対称性の破れ」はミラー粒子によって説明できる。ミラー粒子などによって構成される「ミラー・ワールド」は既知の粒子と関わらないため、観測にかかることはない。
すなわち、現実世界と重なるように鏡の宇宙が存在する可能性がある。ミラー・マターも重力を介しては関わりうるため、それらが暗黒物質である可能性は高い。
というか、第一話の人もそうだったけど、みんな自分の理論によって暗黒物質を説明したがるのね。面白い
□第八話 究極の多宇宙
面倒になってきた。
地球が太陽系の中で特別でないように、太陽系が銀河の中で特別でないように、銀河が宇宙の中で特別でないように、この宇宙もまた特別ではない。無数にある数学形式の中で、物理的実体がたった一つの形式に与えられているわけは、実は全ての数学形式に従う宇宙が存在し、この宇宙はその中の一つに過ぎないだけ、という話。
なぜこういう話が出ると、またぞろ人間原理の話になるのですが、所謂物理法則のパラメータがちょっとでも違ったら、宇宙はこのようにならない。これほど人間に都合のいいように宇宙が出来ているように見えるのは、無数に宇宙がある中で、都合のいい宇宙だからこそ人間が生まれ、人間が世界を認識しうるから、とかそういう話。多分。
□第九話 宇宙は天使が作ったか?
第八話のアイデアでは生命が存在しない「無駄な」宇宙が存在してしまうが、そんなアイデアはダメだ、というなんだソレな考えから生まれるアイデア。生命が存在する宇宙では、十分に発達した知的生命体が、「宇宙創生」の仕事を引き継ぎ、生命に最適な新たな宇宙を作りだす。すなわち生命が存在する宇宙には自己複製能力が存在する、という話。論拠は、宇宙が生命に最適であるように調整されていること、また宇宙が人間にとって理解可能である、という点らしい。
面白いけど、実証するのがまず不可能じゃないだろうか。
□第十話 星間宇宙の生命
生命は恒星系の惑星に存在すると考えるのが一般的であり、惑星がわりと普遍的に存在しているという観測結果から可能性も高いと思われる。しかし、地球でも太陽エネルギーを使わないで生息する生物がいることからも考えられるように、恒星が発するエネルギーが届かないところにいる星間惑星にも生物がいる可能性は十二分にある。
地球にもあるように、惑星の核からは放射能としてエネルギーが放射されている。それらが宇宙に逃げないような大気があれば、地表には十分生命が存続可能なエネルギーが持続しうる。また、恒星系では恒星のエネルギーで逃げてしまう分子上水素が、星間では惑星上にとどまるため惑星は暖かいまま、おそらく100億年は温暖な状態を保つ。
□第十一話 蔓延する生命
パンスペルミア説の話。コレについての本を読んだので、詳しいのは後で書くつもり。彗星などはバクテリアから構成されていて、地球の生命はそれらに由来するのではないか、と言うアイデア。
□第十二話 異星人のゴミ捨て場
SETIからもわかるように、人間が異星人の痕跡を求める場合宇宙からくる電波などを探す場合が多い。しかしそれはどういった周波数を仮定するか、どこを探すかなど決めるべき条件が多く困難であり、人間が思いつかないような通信手段を異星人が使っている場合、見つけるのは実際の所不可能である。
そこで、このアイデアでは、空を探すよりは、地面を探そうと言っている。人間が宇宙活動でデブリなど太陽系を汚染しているように、宇宙は異星人の活動で汚染されている可能性がある。地球は銀河の中を移動しているため、モップのようにそういった異星人のゴミを集めているとも考えることが出来る。あるいは、モノリスのような物が存在する可能性もある。フェルミ推定をすると、一億三千万立方キロメートルあたり一つ存在する可能性があり、そのうちの幾つかは地球におそらく落ちている、それらを探すのが異星人存在を確証するいい方法だろうというアイデアである。
というと「星を継ぐもの」のラストを思い浮かべてしまうのだが、もしそういった物が偶然見つかったとしても、それが異星製であると考えられることはないだろうなあ。
物理的にとか、学問的にどうというのは正直何とも言えないしわからないわけですが、SF読みとしてはこういったアイデアが実際に論じられていて、そして多少なりとも可能性が存在するという事実だけで心が躍る物があります。
読みやすく分かりやすく面白い良書。ポピュラーサイエンスの本も、高いの多いしかさばるけど結構いいなあ。
□篠房六郎「ナツノクモ」7巻
おお、なんかもう結構続いているなあ。
前巻の流れから、クロエ中心で話が進むのかと思ったけど、そんなことはなかった。相変わらずタランテラ防衛戦の話。
まあいつも通り面白かった。
□幸村 誠「ヴィンランド・サガ」3巻
ぎゃーなんだこれ。幸村誠は神か何かか!? 話は面白いし、絵もなんというか、上手すぎて触れそうな感じ。本編もいいけど、特別編もなかなか。もちろんユルヴァがいいというのもあるんですが、戦闘以外にもこういう生活系の話もガッツリ入れて欲しいなあと思った。
発売間隔が広い忘れがちだけど、純粋に単行本だけ見れば話の進みも結構いいし。
あえて難を上げるとすれば表紙はアナログでやって欲しかった、ぐらい。
いやほんとコレで半年に一回ぐらい単行本が出れば何も言うことはありません。
□遠藤 浩輝「エデン」16巻
ここまで来たか、という感じ。もう誰に向けているのかよくわからない感じは多々あるけど、多分僕みたいに好きな人もいっぱいいるんでしょう。僕の周りにはいないけど。
所謂「幼年期の終わり」の系譜に連なる作品なんだけど、ここまで描いてくれるとは思わなかった。この作品を描くきっかけだったと作者の行っているらしいエヴァなんて、単なる丸投げだしなあ。
色々伏線も回収され、因縁の対決にも決着がつきつつあり、話は終わりに収束し始めている感じがする。あとどれくらい続くかはわからないけど、どう終わらせるかというのは非常に楽しみ。
そういえば、みんな意外と遠藤浩輝の絵がかなり変わっていること知らないんだよなあ。元々上手かったけど、それに加えてかなり読みやすいいい絵になっているんだけど。最初の方は読んでも、最新刊まで読んでいる人ってあんまりいないんだろうなあ。
□石黒 正数「それでも町は廻っている」2巻
下町邪道メイド喫茶漫画、待望の二巻。今巻も非常に面白かった。なんというか、会話のテンポがもの凄くいいよなあ。トン、トン、トンと小気味よくやりとりが続くのが読んでいて気持ちいい。キャラもいいよなあ。今先輩がかなりいい感じでプッシュされてた。
話の幅も結構広く、工夫されていて面白い。今作では表題作も良かったけど、SF好きとしては藤子・F・不二雄チックな趣のある「穴」がかなり楽しめた。宇宙人語を訳すと、話の印象が変わるという仕掛けもいい。
全体的に作者のミステリ趣味が上手く昇華されていて、ちょっと変わっているけど目新しく面白い漫画になっていると思う。
□久世 番子「暴れん坊本屋さん」3巻
面白かったけど、やっぱり一巻に比べればパワーダウンした感じは否めない。こういう類の実録的な本は読者が知らない(けど興味のある)世界のことが読める、と言うところが大きいので、長く続ければどうやってもネタのパンチは弱くなってしまうんだと思う。というわけで、三巻で終わりというのはなかなかいい具合だと思った。
本が好きな人間に取ってある程度興味はありつつも、実態の知れない本屋の実情を楽しく読めるいいシリーズだった。