2006年11月25日

西成活祐「渋滞学」

人や車など意志を持って動くモノを「自己駆動粒子」と定義し、それをシミュレーションするための「ASEP(エイセップ)」というモデルを使って渋滞を解析するという研究の成果を纏めた本。かなり基本的な事から説明されているため、僕のような門外漢でも分かりやすく読めた。

「ASEP」は自己駆動と、同じ所に二つの粒子がいられない排除体積効果という自己駆動粒子に重要と考えられる二つの特徴に注目した分かりやすいモデルであり、数学的にも綺麗でセルオートマトンの手法で容易にシミュレーションできる優れたモデルである。
最も簡単なモデルは次のように説明される。はじめにたくさんの用意し、ずらりと並べる。箱には玉が一つだけはいるとして、適当な数だけ玉を入れる。次に玉を一斉に右に動かすのだが、このとき動かしたい玉の右の箱に玉が入っている場合、動けないとする。
こういったルールを使って車の動きをシミュレーションしたとき、自由に車が動ける状態から、渋滞のような状態になる条件は箱の数の半分以上、玉が存在する、と言うことになるらしい。
これを、高速道路での車の流れに当てはめると、密度が一定以上になると渋滞になることがわかる。実際のデータからその臨界密度はだいたい40mに1台となる。つまり上り坂と気がつかないような上り坂である「サグ部」や、トンネルの入り口、カーブなど自然とスピードが落ちる場所では臨界密度を超えてしまい、原因のよくわからない渋滞に陥ってしまうようだ。
と、これだけならASEPを使わなくてもわかりそうな感じもするんですが、この本ではさらに、臨界密度を超えても渋滞を起こさない「メタ安定状態」さらにそのなかでも「強いメタ安定状態」と「弱いメタ安定状態」というのが幾つかのルールをASEPに加えることで解析されている。これを上手く利用すれば、密度が高い状態で一定の速度を出すという輸送の観点から理想的な事が出来るのではないかと書かれている。
他にもパニック時の群衆の行動、フェロモンを使って列を作る蟻の行動、パケット通信など分野横断的に様々な現象を分析していっている。個人的に面白かったのに、電車やバス、エレベーターの運行やなどが蟻の行動分析と同様に行われるというのがあった。蟻のフェロモンは揮発性が高く列の先頭を歩く蟻は、臭いを探しながら歩くので遅くなる。しかしその次以降の蟻は前の蟻が残したばかりのフェロモンを辿っていけるので十分早く動けるため、必然的に蟻の列はダンゴになる。同様にバスなども先に行くバスは乗客を乗せる分遅くなる。しかしそれ以降のバスは前のバスが乗客を乗せた分サクサク進めるのでやはりダンゴになる。まあ、この辺は乗客の供給がどのくらいあるかにもよるだろうし、土曜日の山手線などを見るとぜんぜんこうではないけど。エレベーターも利用者が多い階に集まるためにダンゴになり、三機並んでいるエレベータが全部上に行っていて腹を立てる事態になる訳らしい。
という感じで一つの武器を元に様々な現象を解明していくなかなか痛快な本。これらの研究結果が応用されればかなり興味深いモノが出来るのではないかと思う。ちなみに最後の方は学際関係の話が出てきていて、理学部と工学部の橋渡しになる人材が必要である、という感じの主張をしている。
理論が(応用もあんまり……)駄目な僕には耳の痛い話です。

ちょっと面白い話として、信号が青になってから実際に走れるまでの時間は、前にいる車の台数に1.5秒をかけたものになるというのがあった。