2006年11月26日

「イヴの七人の娘たち」について

そういえば……

と思って「人類が知っていることすべての短い歴史」の人類進化を扱っている部分を読んだら「イヴの七人の娘たち」について言及されていた。そういえばこれを読んだからうさんくさい本だと思ってたんだった。すっかり忘れていた。
言及のされ方を見ると一般的に認められていない、という感じか。研究の結果得られたデータは支持しつつも、それをあらゆる所に当てはめて解釈すると言うやりかたが、認められていないという印象を受ける。
また、マンゴ人の骨など解剖学的には現生人類でありながら、遺伝学的には全然異なるという例もある。これらはアフリカ起源では説明が出来ない。他にも説明がつかないものはいくつもあり、これが真実だ! と叫べる状態にはないということのようだ。これからもホットな話題なんだろうし、いつまでもそうなのかも知れない。
何にせよミトコンドリアDNA一つを取って全てを説明できるわけではない、という感じか。生物方面の人には当たり前なんだろうけど、僕のような門外漢はこういう本を読むとそうか! 説明できるのかと納得してしまう。

というわけで、「イヴの七人の娘たち」の話。
繰り返しだけど、とても面白いと思う。著者の自伝的な側面があるため、主観的な描写も多く見られるが、それはむしろ面白さに貢献していると思う。イヴの娘たちの生活に関する小説的描写は正直ちょっとどうかとも思ったが、ポピュラーサイエンスなんだし、分かりやすくその当時を理解させるという意味では良いのかとも思う。ミトコンドリアDNA一つで説明するのも、わかりやすくていいし。実際に研究に必要の考古学的な証拠、遺跡や土器などの話をしっかりされると、わからなくなるしなあ。この辺のわかりやすさは教科書的に扱えないモノをあえて扱ってしまうと言うスタンスによると思うが、それはわかりやすさでは長所でも最先端の分野である以上決定的な短所にもなりうるし、その辺の他の研究者には困った感じなんだろうなあ。
著者説の宣伝としての役割も見える一般向け科学書の本を読むときにどういうスタンスで読めばいいのかというのは難しい。面白さという点から見れば、気にしないでも良いし、ある意味SF的な読み方も出来ると思う。が、なるべくならやはり反対の意見を持つ人が書いた本なり資料なりに当たった方が良い。ただ手軽なのがあればいいけど、そもそもどんなのがあるのかわからない場合、面倒くさいんですよね。適度に距離を置いて懐疑的に読むのも良いけど、入れ込んで読んだ方が楽しいしなあ。
まー適当に読もう。

そういえば著者の主張の
「個人個人が、共通のDNAでつながった近い関係であることを理解すれば、民族差別や偏見、争いや攻撃をなくすことができるだろう」
というのを見て、「アリソン」のラストを読んでネーヨって気分になったのを思い出した。ただ優生学的な思想が強い社会だとそれなりに意味のある主張なのかなあと思った。著者が想定している民族差別というのは、極端なところではナチスのアーリア人に関する考え方に近いものなのかな。僕には今一現実的に考えることは出来ないけど、そういう観点での主張なのかなあと思う。

と言うわけでなんか一日で評価が逆転したような書き方ですが、そんなことはなく面白いことは間違いなく面白いです。ただ一般向け科学書も怖いよなあと思わされたので一応。