2007年02月12日

最近読んだ本

□ケン・フォレット「大聖堂」
ずいぶん前にネットで書評を見てあーコレ面白そうだなーとかずっと思っていたのですが、年末に何となくその気になったのでとりあえず上巻だけ買ったのですが、プロローグを読んでコレはやばい面白いと思ってあわてて中巻下巻を探しに街をさまよったのですが、どこも上巻と下巻しか売ってなくて辟易しました。というかそんな状態なので上下巻だと思っていました。店員さんに聞いたときに「すみません、中巻がないんですよ」と言われて初めてエ、中巻なんて物があったの!? という驚きというか、まあ驚いたわけです。危うくレ・ミゼラブルのコピペの如くなるところだった。
結局Amazonで買いました。しかし三省堂本店と書泉にないものって大体どこの本屋でもないような気がする。新書で欲しいのがあったのですが、どこの店に行っても見事にその本だけ抜けているのでどうしようかと思った。

で、「大聖堂」面白かった。すごい面白かった。
十二世紀のイングランドが舞台の巨大な大聖堂の再建を軸にした群像劇なんですが、こういう登場人物の欲望が原動力となって話が進む話は久しぶりに読んだので新鮮な感じがしました。SFはどちらかというと状況が先にある事が多いし、僕もどちらかというとそういったタイプの物語を好むので。しかし「大聖堂」は大聖堂を再建する主人公側の人々も、それを邪魔しようとする敵になる人たちも、すがすがしいぐらい自分の欲求に忠実なのがいっそうすがすがしい。相手側がどんなに陰険な手を使っても主人公たちが何度でもどん底から這い上がってくるので鬱々ともしないし。
風俗描写も非常に良かった。翻訳小説なので微に入り細をうがつような描写なのですが、当時の世界を生々しく感じられるような非常に雰囲気のある文章だった。こういう自分の住んでいるのと違うが一貫した世界とそこに住む人間をキッチリ感じさせる小説を読むのは楽しいものです。
割と誰でも楽しめるような気がするので、おすすめです。まー何と比べて誰でも楽しめるかという点については比較対象に問題があるような気もしますが。

今年続編が出るらしいのでちょっと楽しみ。訳書がいつ出るかは知らないですが……。

□「自白の心理学」
この前誰かと飲んだときに、「ラノベとかSFとか幼稚な本ばっかり読んでるっしょ」見たいなことを言われたので、「べべべべつにSFばかりよんでるんとちゃうわ!!」とツンデレしてしまったので、久々に新書でも読もうかと適当に買って読んでみました。ええたしかにSFばかり読んでいます。

えん罪で有罪判決を受ける場合、自白している事が多いけど、なんで犯人でもないのに自白するのか、という事に注目し、犯人と疑われた人間が自白する心理を分析した本。
いや、怖いです。なかなか。僕もこんな状況の置かれたらやってなくても自白するだろうなあ。
まず疑われた人間は突然普段の生活から引き離される。取調室では自分を犯人と信じ、そのための証拠を集めた取調官に厳しい取り調べを受ける。無実を主張しても聞き入れられない。取り調べは下手をしたら何週間も続きいつ終わるかわからない。自白をすればその状況は終わる。その状況では自白をした結果受ける刑罰に具体的なリアリティはあまり感じられない。また、裁判で公平な判決をもらえると錯誤する。
で、自白したら自白したでどう犯行したか供述をしなければならないけど、えん罪だと当然知るわけないので、結果的に取調官と共同作業で調書を作ることになるとかそんな感じ。その過程でもし本当に犯人ならあり得ないような供述の変化があるのでその辺を見ればえん罪かどうかある程度判断できるとか。
イギリスとかだとえん罪が問題となり、取り調べするときは必ず録音するようになっているらしいけど、日本だと警察が反対するらしい。
なんでなんだろう。いや、ある程度は想像つきますが。
と思ったら検察の取り調べについては導入しているようです。いや、録音するかしないかは検察が決めるようですが。録音するコストなんて今ならゼロに等しいんだから、全ての取り調べに導入すればいいだろうになあ。と、素人は思ってしまいますが。
映画も作られているように最近は痴漢えん罪も話題のようですし。
マスメディ(ry

□小松 秀樹「医療崩壊」
ここ最近勤務医さんが書いているブログで医療崩壊が論じられているエントリーを他の場所でも見かけるなあと言うことで、適当にまとまった本でも読んでみようと思ってその辺で推薦されている本を読んでみました。
虎ノ門病院の泌尿器科で働いている現役の勤務医が、現在の医療が置かれている状況を幾つかの方面から解説、問題提議し、その解決方法も提案している本です。勤務医という自分の位置を明確にして主張しているところは良心的だなあと思いました。

医療は、費用とアクセスと質で評価され、一般的には三つが同時に成り立つことは困難であるとされている。日本では医者が激務を負うことでその三つを曲がりなりにも達成しているが、医療費抑制と安全要求という相反する圧力に晒されることで、医療現場の状況は急激に悪化している。その結果現場から負担に絶えられなくなった医者が止めていくという状況にある。また医者が止めると、残った医者の負担が増えやはりその医者も止めるというように、雪だるま式に医者が居なくなっている。その状況は、マスメディアによる報道や、医療裁判によってさらに後押しされている状況にある。結果として産科や小児科は既に崩壊寸前であり、内科や外科なども後に続こうとしている。
というのはまあ、どこのブログにも書かれて居るんですが、その原因などを分析し体系的に読みやすく纏めているのでありがたい。
まず一つは医者と患者の認識の差であるとしている。もともと医療によってどんな病気、ケガなどが直ることはあり得ず、一定確率で助からない場合は存在する。しかし一方で患者の側で医療の不確実性を理解していない人も多く、死んだ場合など医者がミスを犯したからだと認識する場合がある。現在の制度ではそういった患者が保障を受けるためには裁判を起こすしかない。しかし裁判では医者と患者という対立構造が作られてしまい、泥沼にはまってしまうという問題がある。
他にも、医療を検察が扱うことの不当さ。法律家の医療や科学への不理解。警察介入の問題。業務上過失致死という明治時代の法律で医療を裁くという問題。
コスト削減が行き着く先でありおそらく日本も同じようになるだろうというイギリスの医療崩壊。待機患者リストが百万人を超えているらしい。
大学病院など医局の問題。医師会による開業医への利益誘導。厚生労働省のビジョンのなさ、責任放棄。メディアの質の低い報道など。
という感じで医療を取り巻く問題を一つ一つ丁寧に説明しています。おもしろいと言うには深刻な問題ですが、面白かったです。
ちなみに僕は責任を人に押しつけられる人がみんな押しつけた結果、押しつける先のない現場の医師が逃げ出した、と言う印象を受けました。

□井上 薫「司法のしゃべりすぎ」
裁判判決の理由では、法理論的に考えて判決を導き出すのに必要ない事、「蛇足」が書かれる場合が、非常に多い。蛇足を書くことは法律違反だし、様々な害がある。というわけで蛇足を書くな! 馬鹿!!
というかんじ??

言っていることはわかるが、
お前の態度が気にくわない。
という感じがしました! 
いや、まあ、確かにそうですね、という感じだけど何でそんなに上から見ているのと言うか、もし状況を改善させたいなら言い方があるのではないかというか、こういたずらに反感をそそるようなのはどうかとも思うんですが、論理的で知的で金持ちの法曹界のエリート様様がたは、僕みたいなエモーション駆動の人間と違って、理知的にものを判断なさるので特に問題はありませんでした。

□浅羽 通明「左翼と右翼」
あれ、「右翼と左翼」だっけ??
ネットで当たり前のように使われているけど、右とか左とかよくわからないなあというのが正直なところであり、加えて言うとそんなことも知らないなんて! ばかめ! ばかめ! ばかめ! どうしてそんなにばかなんだ! とか言われたらどうしよう。という強迫観念に駆られたわけでもなく、単にYouTubeで久しぶりに鳥肌実をみたら割と面白かったので読んでみました。
「皇居にむかって敬礼!!」

右左という概念が生まれたフランス革命当時の歴史からはじめて、その後右左がどうなっていったかという世界史をざっくりと語った後で、明治以後の日本の右左、戦後の右左、現在の右左、をざっくりと書いた本。中学生に噛んで含めるように書いてあるので僕のように歴史音痴にはありがたい。現代については割と、作者の考えが強く入っている感じもしたんですがその辺の妥当かは不明。まあ右左という対立軸はすでにあまり意味がないというのはよくわかった。

今でもデモー行進している人たちは実際の所どの程度言っていることを信じているのだろう。

□藤沢 数希「なぜ投資のプロはサルに負けるのか?」
そうか、サルに負けるのか、と思って何となく購入。
本はタイトルが九割。
というわけで投資だかファイナンスだかポートフォリオだか良くわかんないけどその辺の入門みたいな本であり、投資なんか止めましょうという本でした。前読んだ臆病者のための投資入門と結論はかわんないけど、もとになっている理論が同じなんだから当たり前かな。
効率的な市場の話はちょっと面白かった。
読み終わってから調べてわかったけど、ブログ本のようです。


あれ、こうやってみるとSFが入ってないな。珍しい。
いや、コラプシウムを再読したりはしているけど……。今手元にある読んでないSFって読む気がしないのしかないんだよなあ。じゃあ何で買っているんだよと言うと、中古でつい。新品で買うときは高いので読む物しか買わないけど、中古だとつい買っちゃうんですよね。特に絶版本とかだと安いと脊髄反射で。
あー新品でもレキオスとか読んでないか。
もうよまねえだろうという積ん読をどうした物かと悩む。