感想とか
■福井 晴敏「月に繭、地には果実」
終戦のローレライとかの作品で有名らしい福井晴敏が書いたターンAガンダムの小説。終戦のローレライというと、映画版の隙間に堕ちた野球ボールを拾おうとして手が抜けなくなったせいでおぼれ死んだかわいそうでちょっとおちゃめな人の最期を重々しく写した名シーンが印象に残っています。
評判は聞くのですが、著作を読んだのは初めてでした。アニメの初期のアイデアを元にしたと言うことで、最初の方はアニメに沿っているのですが、途中からだんだんと変わってきて、全く異なったラストになっていました。といってもアニメは最初の頃しか見てないのでどの辺りが違うのかは具体的にはわかりませんでした。
面白かったです。ターンAの牧歌的SFの味わいを出しつつ、重厚な話を展開し、最期には冨野作品らしくキャラを存分に殺し尽くすという豪勢な作品でした。アレ、ターンAって人があまり死なないんじゃなかったっけ、とかいう僕の先入観は見事に打ち砕かれました。もう余裕で最低数百万単位で死んでます。主要キャラも容赦なくばんばん死にます。過去のトラウマ話とか悩みとかを披露した人たちはもれなく死んでいきます。死亡フラグです。ロランとかソシエとかまともな人だけ生き残りました。素晴らしい。
そんな感じで後半は結構鬱々としているのですが、スケールが壮大なのである種の爽快さを感じます。
そういえば心に傷を負っているキャラが妙に多いな、なにかこのの雰囲気見たことあるなあと思ったんですが、よく考えるとエヴァに似ているなとちょっと思いました。主役とかがまともなのであんまり鬱陶しくはないですが。
面白かったのはホントですよ。三回も四回も装丁を換えて発売しなおされるだけのことはあります。泣きながら一気に読みました。
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割とどうでも良いんですが、僕が買った幻冬舎の文庫版は、アニメに興味がない福井晴敏ファンに売ろうとしているのか、非常に、何というか、一般向けな装丁になっています。うん、そういう試みは良いんですが、なんというか、どうなんでしょうね、これ。現状で安くてに入るのはコレなので買ったのですが、ちょっとガックリきます。
■奈須 きのこ「空の境界1」
奈須きのこの同人小説、が文庫化されたヤツ。同人→同人→新書→文庫。という連鎖。それだけ評判と言うことでしょう。今回の文庫化は映画化にあわせてのことだと思います。一章一話で全七作で映画化ということでその気合いの入れようが知れます。実際公開中の一話はなかなか評判のようです。
感想としては月姫やFateにあったウケの良さそうな部分をそぎ落としたような感じ。なるほどコレが生の奈須きのこなのかと思わされた。売るための要素が少ない分奈須きのこらしさは物凄く強い。その辺りが好きな人にはたまらない小説なんだと思った。
■A・ゴルボフスキー/「失われた文明」
過去地球上には高度な文明が存在したが、一万数千年前の大災害によって人口は減り、文明は失われ忘れ去られた、という説を様々な伝承をもとに論じている本。グラハム・ハンコックみたいな話だなあと思ったら、1971年に出された本なのでむしろこっちがネタ元だと思われる。
スタンスとしては、あり得ないかも知れないがイマジネーションを駆使して壮大な仮説を立ててみるという感じで、わりとバランスはとれている感がある。ちなみにエンターテイメント性も高い。あーなさそうだけど、あったら面白いなあという感じで結構楽しめた。もうずいぶん前の本だし、反証とかも色々出てるでしょうけど。
作者はソ連時代のロシア人なので、マルクスとかブルジョアとか歴史の歩みの法則性とかがちらっと出てきて、時代を感じさせた。この部分の記述は本気なのかポーズなのか興味がわく。
■伊集院 光「のはなし」
伊集院光がメールマガジン上で連載していたものを集めたエッセー集。「あ」から「ん」まで82個のテーマを元に山ありオチありの実に密度の濃い本だった。
面白い。伊集院光が何で人気があるのかわかった気がする。
僕は「好きな理由」「寝言」「乗り越した」「フリマ」辺りが印象に残った。とくに「乗り越したの父親のエピソードは、「好きな理由」とあわせて読むと何とも云えない気分になる。「寝言」は普通に笑いすぎて腹が痛くなった。
■有田 隆也「心はプログラムできるか」
人工知能とか人工生命とか技術を広く集めて解説した本。良くまとまっていて分かりやすかったと思う。
利己心から利他性が生まれる話とかが実際にシミュレーションで実証できるとかは面白かったです。あー、と。
■佐藤 大輔「皇国の守護者」
コミック版が中途半端なところであえなく連載終了になってしまったので、しょうがないので原作を読むことにしました。あらためて原作を読むとコミックが二巻の途中で終わっていることが分かりその中途半端さに驚きます。それはもういいんですが。
まあ、そんなわけで<大協約世界>という別世界で<帝国>に攻め込まれた<皇国>で一介の中尉にすぎない主人公が獅子奮迅の働きを見せて勝ったり負けたりするミリタリーファンタジーです。
内乱の話辺りからはかったるくなりますが、そこまではだいたい文句なしで面白かったです。あと軍人の階級がそれぞれどういったものなのかという雰囲気が何となく分かったりと、その辺り完全無知な人間としてはそれも楽しめました。世界設定の厚さはさすが佐藤大輔です。
そういえばコレで佐藤大輔の作品は、歴史改編もの以外で主なものはほぼ読んだ気がする。
9巻でガッツリ設定が変わっているとかいう噂を聞いて、まーでも読み方が雑な僕にはわからないだろうなあとか思ってたんですけど、余裕綽々でわかりました。変わりすぎだろうコレ。身体に触れてなかったんじゃなかったんかい!
あれか、痴漢えん罪をおそれる人のように諸手をあげつつ、身体に触れてないですよ! 指一本触れてないですよ! とか良いながら下半身だけで夜の肉体運動に励んでいたんだろうか。器用だなー。
というどうでもいい妄想。
そんなわけで既刊を全部読むと気になるのは、果たして続きが出るのかと言うところなのですが、その点佐藤大輔はかなり怪しいというか、過去の戦歴を見返すにつけ、でない可能性が高いと思われます。その点話していると、主人公が劣勢を脱してしまうと、作者はその作品への興味を無くしてしまう、という説を効いたので、なるほどそれならもう続きは出ないかもなあと思った。
内乱を制したしこれ以降皇国で主人公が自由に動けるなら、戦力差はあるとはいえあれ、もう負けない理由もないもんなあ。だいたいイベントもこなしてしまったかんじだし。あれですよ、続きがあるなら、一文で書けますよ。
「もちろん、新城直衛が<皇国>軍を率いて<帝国>軍を打ち破ったことは言うまでもありません」
あ、でも一巻冒頭の手紙があるな、そういえば。
■牧野 武文「萌えで読みとく名作文学案内」
タイトルそのまんまです。いろんな有名作家の名作をとりあげて、「萌え」という視点から紹介している本。この中でよんでいるのは「伊豆の踊子」と「眼球譚」だけなので何とも言えない。しかし、こう全て萌えにしてしまうという身も蓋もなさがなんとも面白い。文学なんてそもそも、そんなもんなんですよ、という感じ。
■池田 信夫「過剰と破壊の経済学」
ムーアの法則に代表される情報技術の破壊的な進展が、世界にどういう影響を与えてきて、そして与えていくのか。それにどう対処すべきなのか、という事を書いている本。
それは、SF好きな視点から言えば、ものすごく楽しみではある。計算機が高性能化し普遍化する果てにどうなるのか。もしかしたら、シンギュラリティに到達するのか、とか。
一方で自分の足下をみるとそれはとても恐ろしい。世界中のあらゆる国の人を相手として、あるいは競争して働くとして、果たして自分は必要なだけそこに居続けられるのか。そして勿論計算機もまた相手になるんでしょう。人間しかできないと思われていたような仕事が計算機に置き換えられていくというのは、これからもどんどん進展していくのだと思う。果たしてその先に僕の働いて稼げる余地があるのか。あるいは、それまでに経済的に自由になれるのか。どうか、等。
そういうことを考えると、物凄く恐ろしい。
ああ、早くビッチャン世界やボーダーガードの世界みたいにならないかなあ。
■田中 ロミオ「人類は衰退しました2」
すごいふしぎな傑作SF「人類は衰退しました」の第二弾。今回は妖精さん自体はあまり登場せず、妖精さんの道具スプーンとバナナが巻き起こすちょっとしたドタバタが軸になってます。相変わらず何とも言えない気の抜けたすごいふしぎ感です。
これぞセンスオブワンダー。
次はもっと妖精さんがでるといいなー。
■上橋 菜穂子「夢の守り人」
守り人シリーズの第三弾が文庫化されていた。トロガイ師の過去を絡めてナユグとはまた違う世界が出てくるお話。結構良かった。チャグム、バルサ、トロガイ師という感じでお話が展開されているので、次はタンダの話に違いない。
■赤坂 真理「モテたい理由」
なんかちょっと話題になっていたので読んでみた。男女論に関するエッセー本。体調があまりよろしくなかったので、読んでも何を行っているのか全然頭に入ってこなかったので、どういう内容だっけなー、とか思っていたら、著者によるまとめがあった。
なるほど。
しかし、男女論というのは非常におおざっぱだよなあ。クラスが二つしかないんだもんな。とかいつも思っているんですが、どうなんでしょう。統計的に意味があればOKなのかな。でもだいたいそういう分析じゃないしなあ。
いまぱらぱら見返してたけど、やっぱりどういう内容かよくわからない。ただ、この本の柱である女性誌分析は文句なしで面白かった。可笑しいところだけ強調して取り上げている感もあるけど、知らない世界をかいま見れた面白さ。
女性誌を読みすぎると鬱になるとか言うエピソードもちょっと笑えた。理想的な人物像を自分の中に入れてしまうと、それと自分とのギャップに苦しんでしまうのはわかる。精神の毒ですね。少なければ役に立つこともあるでしょうが。
「電波男」の時もそうだったけど、なんで最期が自分語りになるんだろうなーとも思うけど、結構こういうところが一番面白かったりする。個々人が自分自身のために持つ物語。まあ、色々ありますね。
男女論に関しては、僕は正直何も言えないのでなんとも。男はみんなオタクとか。一方女は関係性に強いとか。まあ、そうなのかな、とも思うし、そうなの? とも思う。よくわからん。
協力してやらなければならないところ以外は、みんな好きにやると言う風にはいかないのかな、と思う。
難しいか。
■貴子 潤一郎「眠り姫」
富士見ファンタジア文庫の短編集。
濃縮小説の技術を使った小説、ファンタジー小説、探偵小説と幅が広いんですが、どれも質が高く面白かった。しかし器用すぎるというのも考え物です。
ファンタジーはそれほどエロくなかったと感じたのは自分が直接的な表現になれすぎてるからだろうか。