くうそう☆かがく
何となく気分なので家にあるSF小説の感想文を気の向くままに書いてみるぜ!
存分にネタバレがあるので、嫌な人は読まないと良いかもね!
あと全部読んだの大分前なので大分忘れてるかも! 前書いた感想と食い違ってても気にしないで!
□小林泰三
というわけで最初はやっぱり小林泰三ですよ。小林泰三ラブな僕としてはこれがないとはじまらない。実際小説家の中では一番好きだ! 大好きだ!!(告白)
最初ホラーレーベルでデビューしたこともありホラー作家の仮面をかぶりながら小説を発表していたんですが、その根っこには絶対隠せないSF臭がプンプン、こいつぁーくせー!! としていたものです。最初の短編集「玩具修理屋」収録の「酔歩する男」なんか完全量子力学ネタですし。しょっぱなからそれかよ! それでしっかり怖気のふるうホラーになっているから凄い。あととにかく汚いモノを描くのが卑怯なまでに上手いんですよ。
他にもミステリー作家としても、異色とはいえ面白い作品をものしてます。ミステリーの単行本も二作ほど出ているのでそちら方面の人も楽しいかも。個人的にはモザイク探偵帖がお薦め。作者の作品のクロスワールドになっているので、そこから他の作品にも入れますし。
というわけでホラー、SF、ミステリーと三大ジャンル小説をしっかりと押さえているという、メジャーで人気の出なさそうな感じが素敵です。
愛・ラブ。
個人的に彼の作品に通じて感じるモノというかテーマは、
「人間って……結局モノだよね!!」
だと思った。というか、そういう熱いというか冷たいパトスをびんびんに感じます。人間の尊厳とか言ったら腹を抱えて笑ってしまいそうなかんじです。なかなかユーモアのある作品が多いんですが、そこには作者の軽やかな悪意が感じられます。突き刺さります。
それともう一つ。どんなに頭のおかしい作品を書いても語り口が完全に冷静なんですよね。この人。ディックみたいにあー作者の頭おかしーねー、という牧歌的な雰囲気ではなく、手術室で眼鏡かけたイケメンの医者が無表情で人間の頭を解剖しているような雰囲気です。
というわけで、適当に好きな作品を上げてみるぜ! 大体全部好きだけど!
・玩具修理者
デビュー作。どんな玩具でもなおしてくれる玩具修理者に、間違って殺してしまった弟を持って行ったら直してくれた! やっほー!! という話。小林泰三お得意の吐き気を催す生々しいグロ描写は、最初っから絶好調です。人とー玩具のぉー間にはー♪
うーんサイバーパンク!
・食性
「食べれば罪にはならないのよ」
ですよねー!!
・ジャンク
ウエスタンな世界観で人狩りとか、人狩りをハントするハンターキラーとかが出てくる荒野にひびく歌声、男のロマン! な感じに見せつつ死んだ人間をジャンク屋に売って脳はCPU、目はカメラ、手はマニピュレータに、人造馬は死体の寄せ集め、というファンキーな小説です。でもいい話。泣けます!!
・人獣細工
先天性の病気で全身豚の臓器を移植した女性が偏執狂に駆られ手術の記録を遡っていくうちに、実は偏執狂どころか、いやー人だと思ったら、自分実は豚でした!! という衝撃の事実! にぶち当たる愉快なお話。
人! 豚! 人! 豚! 人! 人豚!!
・ΑΩ
みんな大好きウルトラマンを底にした、超絶スプラッタハードSF。最初の導入から振るってて、太陽系の宇宙空間に住んでいるプラズマ生命体”一族”と暗黒物質生命の長大な時間にわたる争いからはいり、地球に逃げた敵を追ってきた一族の一人が誤って殺してしまった人間を生かすためにさりげなくとりついて、あとはまあ、変身して戦ったり腕を物理的にちぎって敵を倒したりしてます。というわけで飛び散る肉! 血! 変なモノに吸収されてべちゃべちゃにくっついてしまう人体! 終末の新興宗教! 見えちゃいけない青い光を見ちゃう協力者! とか素敵なシチュエーション満載です。
喫茶店で待ち合わせた義妹の首がぼっとり落ちたり、慌てて彼女の部屋に行ったら部屋の壁が義妹でびっちり埋まってたり。げろげろ。
子供が大好きなウルトラマンからこんなモノができるなんて驚きです。パロディーってこうあるべきですね! あと渦動破壊者やら電話消毒係などSF好きにはたまらないワードがちりばめられてます。
・未公開実験
たしかホーガンの「未来からのホットライン」と同じようなネタだけど、ひじょーにあほくさい語り口が大好き。なんだよタイムマッスィーンって。
・脳食い
宇宙に進出した人類がであった異星人は、人間を襲って脳みそを食べてしまうという恐ろしい奴らだった! でまあ、何をやっているかと言えば集めた脳みそをペタペタくっつけて凡ての知性体を一つにして、なんでも望みのかなう、現実と変わらない夢の世界につれてってしまうというお話。
なんだかんだで人類救済の物語。一時期ちょっとこの結末にあこがれました。
コレを読めばエヴァなんて屁でもねーぜ。
・予め決定されている明日
仮想現実ものの最終兵器!!
僕たちの現実は! なんと! ω次元の人間が! ソロバンと紙で計算している! 仮想現実だった! という衝撃の事実が明かされます。
まーなんというかソロバンですよ。紙ですよ。仮想現実というとマトリックスみたいに格好いいイメージのモノが多いですが、これはソロバンですからね。超アナクロです。でもまあ、確かにそうなんですよねー。
イーガンの順列都市みたいな人のダウンロードを行うものって、ダウンロードのプロセス自体はともかく、その後やっていることは手計算と何も変わらないわけで。
人間がコンピュータ上で再現できると思うかどうかと言うのは、自分そのものが手計算と何ら変わらないモノであると思うかどうかと等しいわけです。
言われてみれば当たり前なのですが、コレは結構衝撃でした。
オチも含めて、順列都市と比べて読むといっそう幸せになれます。
・?憶
友人を助けようとしたときに頭をぶん殴られ前向性健忘症になってしまった主人公が、長期記憶の代わりに使っているノートに書かれている、自分は殺人者であるという衝撃の供述から真相に迫っていくという傑作。
果たしてある人がその人であるというのは、どういうことなのかという哲学的な問題に触れることが出来ます。
あと、お前喰っているのそれ人肉だよ! と思わず突っ込んでしまうシーンにはニヤッとすること間違いなしです。
主人公は「路上に放置されたパン屑の研究」にも良い感じででてます。
そんな感じで僕の! 小林泰三ラブは存分に伝わったかと思います。何冊か手元にないので書いてないのもありますが、傑作揃いですよ−。
□グレッグ・イーガン
現代SFっつったら外せないですよね。イーガン。イーガーン! みんな好きすぎだろ。おい。とにかくアイデンティティと言うことをテーマに手をかえ品を変え手をかえ品を変え。品をかえ品を変え。
幅広く深い知識からくる超ハードな描写と、ある意味では誰でも共感できるテーマの合わせ技一本でそりゃ大人気になるのもわかるわーといったものです。
個人的には長編はまとまりが悪く、アイデア一本で完結する短編の方が完成度が高く感じます。
人間らしいと云われるような事柄どもを解体して解体して、ただの物理現象に落とし込んで、それでもなお人間とは何かということについて考えているものが多いと、思います。感情、意志、死、その他もろもろ。投げっぱなしになっていないのが小林泰三とは違う作者の誠実さですね!
ちなみにそのあたりの問題というのは別にフィクションに限ることなく、現実に科学者によって発見された事実をどう受け止めるかという非常に難しい事と同じだと思ってます。人に「自由意志」はあるのかとかね。
ないよねjk。
ところでTAPはいつでるの?
・ぼくになることを
なんかさー脳みそってさーほっとくと細胞死んでいくしサー、ちょっと耐久性に欠陥あるんじゃね。こういう欠陥設計を放っておくのも良くないしさ、同じ機能を持ったもっと丈夫な演算装置に取り替えたらいいじゃない? え、どうやって同じか判別するかって? 同じインプットに対する反応が同じなら同じだろ、常識的に考えて。
自分がコピーされて二つに分かれたらどうなるだろうか、というのは結構妄想するモノですが、逆に全く同期して動く脳が二つある、というのは面白いよなあと思う。
ただエンドーリ装置がそこまで信用できる装置だというのが、どうよ。
・百光年ダイアリー
過去に情報を送れるようになった世界で、各人が自分の人生を通した日記を自分の人生の元に受け取れるようになった世界。人は生まれながらに自分の人生がどうなるかを知ることが出来る。で、結局。
人間はかわらねー。と言うお話。
人は過去の自分に対してでも、言いたいことしか言わない。言いたくないことは言わない。知れる情報は変わるが、不確定なことは不確定。
・祈りの海
神秘体験というのは脳の機能のお一つ、というお話があったような気がする。詳細は忘れたけど。脳みそに磁気刺激を与えることで神秘体験が起こせるなら、修行とかあほくさいね。いや、そういう問題でもないんでしょうが。全然知らないんですが、こういう機能が脳にあるというのは、それが人間の生存にとって何か有利になることがあったのかしら。
脳みそに刺激を与えて自由に自分の感情なりなんなりを簡単に変える装置というのもそのうちに出てくるのかなあ。ノウン・スペースシリーズに出てくるアレとかみたいな。
・道徳的ウイルス学者
エイズは不埒モノに下される天罰であると考えた道徳的な人が、神の意志に適うより強力なウイルスを開発しちゃうお話。うは。はははは。その発想はなかった。
・ボーダーガード
グレッグ・イーガンの素敵なところの一つは不死の人間を不幸であると扱わないことだと思う。僕はイモータルが死にたいとか殺してくれとか言うような物語にはうんざりです。
・しあわせの理由
自分が幸せを感じる理由が理解でき、幸せを感じている部分は人工物そのものであり、何に幸せを感じるかも自分の意志で変えられるとしたら……羨ましいな、おい!
とか思った。まあ、その前の状態は羨ましくもないが。
自分を思うように出来る、というのは、いいよなあ。
・宇宙消失
唐突に空から星が消えた世界で、脳にソフトウェアを埋め込んだ探偵が世界の謎に挑むハードボイルドSF。多分。観測問題をテーマにした壮大なアイデアは一読の価値はあるのですが、個人的にはそれ以上にモッドというソフトをレトロウイルスを使って脳にインストールして、機能を拡張するウェットなサイバーパンク世界が魅力的でした。
波動関数の収束を制御するモッドは量子コンピュータを感じさせます。
・ディアスポラ
コンピュータ上の都市、ポリスで生まれた<孤児>が自我に目覚めたりガンマ線バーストから肉体人を救おうとしたり宇宙を旅してチューリング完全な成長する絨毯型生物の中の仮想世界に触れたり五次元世界にいったり無数の宇宙を横断しながら、数学のすばらしさを再発見する物語。なんつってな。
それはともかくポリス市民、肉体人、グレイズナーと人類が進化するに従ってどんどん分裂していくというのは古典的ながらも心癒される設定です。といってもスキズマトリックスとかレナルズの作品とかしか思い出せないが。そしてレナルズは読んでない。
現代ハードSFらしく、素人にはお薦めできない風味なのですが、眠れない夜にはお薦めです。
□スティーブン・バクスター
この人の書くSFこそ、王道中の王道 ザ・SF! ですよ。ザ・SF。
最新の宇宙論をさらにさらに飛躍させて、誰も決して想像し得ないほどのスケールで物語を描けるのはバクスターをおいて他にはいないでしょう。
特に代表作たる<ジーリー・クロニクル>。始まりから終わりに至るこの宇宙の歴史をバリオン生物と暗黒物質生命の戦いとして描いたこのシリーズに勝る希有壮大なSFを僕は知りません。
・プランク・ゼロ、真空ダイアグラム
短編集でジーリー宇宙を俯瞰できる傑作短編集二巻。人類の宇宙進出と様々な地球外生命との争い、圧政とそれを打ち砕く戦い、その影にある様々な物語、そして人類がジーリーに次ぐ存在となり、ジーリーに挑み、凋落していくまで。
そして神に比肩しうるほどのジーリーですら、暗黒物質生命フォティーノ・バードとの戦いに勝てることなくバリオン宇宙は静かに、静かに死んでいく。その圧倒的な絶望と、次の宇宙に託されるささやかな希望。
あとはまあ、とにかく出てくるガジェットが凄い! 先ず一つ、いろんな生物が出てくる。一個体が惑星サイズで乱流を使って思考をするクワックス、脳みそをエネルギー効率の良いギンギラギンの球体に突っ込んでしまったシルバーゴースト、人工的に作られ、豊饒になるよう成長することを運命づけられた<論理>そのもの、水星に誕生した生命に寄生する生物に自らを改変することで生き残る道を選んだ、かつての星間旅行者、己らを宇宙船に改造し他生物にサービスを提供することで生き残ったスプライン、とまあ書き出すときりがないのでこのあたりで。
勿論生き物だけではなく、ワームホールを光速でどっかに持ってって戻ってきたらタイムマシンになるよね! というのをそのまんまやっちゃったのとか、一日に一歳ずつ年を取り、果てにダウンロードされ太陽調査装置に組み込まれる少女とか、重力定数だけが十億倍の世界とか、そしてなによりボールダーのリング!
宇宙ひもで出来た直径一千万光年という巨大銀河クラスのリングを高速で回転させると、他の宇宙へのインターフェースとなる裸の特異点が現れる!
いや、正直しびれました。今後どんなSFでもこれ以上のサイズの人工物を見ることは出来ないだろうと思います。
というわけでSFのガジェットというかアイデアというか、そういう方面の所に引かれるモノがあるなら、ジーリー・クロニクルに手を出すのは間違えではないはず。とりあえず短編集二冊で手頃だし。良ければその他長編を読むべく、古本屋巡りか図書館巡りをすべし!
□フィリップ・K・ディック
僕が本格的にSFを読むきっかけとなった、気違いSF作家。
今でも覚えてます。高校のときに家から駅までの道の途中にあったガレージを改造した趣味でやっているような古本屋で、何を考えたか買ってしまった「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」、あれから何年もSFを読むことに。
それまでもポツポツ読んではいたもののジャンルには足を踏み入れていなかったんですけどね……。そのころはファンタジー好きだったし。どちらかというと。ドラゴンランス戦記とかエルリック・サーガとか。
何に感じ入ったか分からないが、確かにファンタジー好きに訴える、描かれたディストピアの魅力というモノはある気がする。荒廃しつつある都市、コンクリートのひび割れたアパート、倦怠にまみれる人々、ゴミに覆われていく世界。
特に長編で作品毎のクオリティの差があり得ないぐらい激しいのですが、短篇はどれも安定して面白いです。短編集をお薦めいたします。間違ってもヴァリスとかザップ・ガンとかから読んだらダメです。
ごめんなさい。
ディックの魅力は何? ってきかれたらやっぱり 現 実 崩 壊 でしょう。定番ですが。この僕たちが当たり前だと思っている世界は、本当に本当に当たり前なのか? お父さんは本当に人間なの? エイリアンが入れ替わっているんじゃないの? 自分は本当に自分なの? この者は本当にものなの? この記憶は本物?
等々、作者のパラノイアを全面に押し出した読むと所在のない不安感に陥り気分の悪くなります。現実が虚実になり、妄想は現実になり、現実だと思っていた妄想は現実になる。崩れた現実の先にあった、本当の現実もまた、たやすく壊れ、確たるモノが何もない世界で人々はただ笑って立ち尽くすしかない。ホラーではないのだけど、ちまたのホラーに比べてよっぽど原始的で現実的な恐怖を書いている。
そこには理論も論理も何もなく、読者は登場人物と一緒にただ呆然とするしかないのです。
それでもこれらの作品が救われるのは、作者のユーモアが失われることがないからだとおもう。なんだろう……
ああ、もーこの何とも言えない皮肉で笑える感覚が上手く書けん! とにかく素晴らしいんだ! ディックは!
・変種第二号
ディックの魅力がギュッと凝縮された傑作。人類の戦争が激化し、兵器の開発も追随し、機械が自ら兵器を開発するようになった世界。機械は人間にしか見えない兵器<変種>を生み出すようになっていた。
いったい誰が変種なのか、人間なのか。というと影が往くからのベタベタな設定ですが、いやいやどうして救いがたい傑作になっています。
映画化されてたはず。
・報酬
ペイチェックというタイトルでしょっぱい映画になっていた。白い鳩が飛んでいた。
珍しく読んでスカッとするお話。
・にせもの
宇宙人に入れ替わられたとして政府に付け狙われる。自らの潔白を明かすべく主人公は頑張るが……。
まあ、結末は分かりますよねー。
最後の一文が大好き。
・フヌールとの戦い
地球に来たまぬけな侵略者フヌールとの気の抜ける戦いを描いた脱力モノのお話。
僕も大きくなりたいです!! 三番目の方法で。
・まだ人間じゃない
両親の意志で「生後堕胎」が許される世界のお話。まーもろ堕胎の是非がテーマのお話ですよね。人が誕生するとき、いったいいつから人間と言えるのかどうか。後書きで抗議の手紙を多数受け取ったというがさもありなん。
人間とはいったい何かという事を(多分)考えていた作者としては、お腹の中にいるうちは人間ではないという考え方は納得がいかないのかなと思う。生まれたての赤ん坊を殺すことが罪なら、なぜ生まれていない赤ん坊を殺すことは許されるのか。
これの逆でもう人間じゃないというタイトルで話し作れないかと考えましたが、F先生が定年退食といういー作品描いているんですよねー。
・植民地
人工物に偽装して人間を襲う生物がいる惑星におりたってしまった探検隊が、生き延びるべく頑張るが。ディックの中では最高のホラー。これを読んだ後はホントに、何とも言えないゾッとした気分になる。見慣れたモノが唐突にそうではなくなるという恐怖。
皮肉で最悪の結末を迎える「影が往く」といえる。
・ユービック
僕が読んだディックの長編では一番好き。何もかも時間退行していく世界とそれに抗う唯一の道具ユービックを巡るお話。
ディックのいつも通りのプレコグ、アンチプレコグとの争いから始まって、唐突にはじまる身の回りのモノの退行現象。お金は古銭となりモノは腐り、仲間はひからびた死体となる。愉快なのは、物語中で明かされた真実もまたその確からしさを容易に失い、物凄い不安定な気分のまま話は終わってしまう。この読後感の不安定さこそディックであればこそだろう。
・暗闇のスキャナー
スキャナーダークリーという原題で日本でも映画が公開されていたはず。見てないけど。買ったまま四年ぐらい放置していたけど、読んで大後悔。早く読んでおけば良かった。出来れば高校生ぐらいに。麻薬取り締まりのために潜入をしている捜査員が、自分自身を見張るように命じられてしまう。ディック自身の麻薬体験を元に描かれただけあって、コミュニティの描写はとても真に迫る。
「重力の衰えるとき」ではないが、現実にもこうやってゆっくりと自分の脳細胞とお別れをしていった人間がいたのだろう。
望んでか、望まないでかは知らないけど。
ディックの作品は基本的にどれもユーモアに溢れている(後期のは読めてないのですが)。どんなに狂った世界でもニヤリとさせられるような皮肉な描写や、仕掛けが施されていたりする。ただそれは読者を楽しませるためと言うよりは、パラノイア的な恐怖に対抗するための一つの手段だったのかなと思う。切実だったのではないかと。
そういう意味ではユーモアは非常に強力な武器なのだろうなあ。
□E・E・スミス
スペースオペラの頂点、レンズマンシリーズの作者。この人も外せない。少し小難しいSFを読みかじり、スペオペは下らないとか思っていたクソ馬鹿な自分の頭に強烈な一撃を加えた作家です。
とにかく息もつかせぬ展開、クライマックスに次ぐクライマックス、魅力的なキャラクター、次々と出てくる超兵器、銀河を一またぎにするスケール感と、読んでてこんなに単純に面白いSFがあったのかと衝撃を覚えました。
そしてこの最初の巻がなんと1920年代に描かれたという驚き! 何十年を経ても全く色あせぬ新しさ、面白さを持つこの作品をみると、正に 名 作 という称号がふさわしい。
銀河文明圏に跋扈する宇宙海賊ボスコーンと戦う、銀河パトロール隊、そしてそのエースであるレンズマンである主人公キムボール・キニスン。すなわち主人公はいわば警察。そしてレンズマン。精神文明アリシアより与えられた偽造不可能な”レンズ”は真に正義の心をもつモノにしか身に帯びることが出来ない。
そう、主人公は、正義。言うなれば絶対正義。善をなす愚連隊でもはぐれ刑事純情派でもなく、エリート中のエリート、銀河の秩序を一身に背負い、人類の善を体現する存在。
一方主人公と対するボスコーンは単なる宇宙海賊ではない。そのものの始まりより悪である、純度100%の絶対悪。己ら同士でも悪をなしあう、悪に拠って成り立つ、銀河文明とは別の、もう一つの文明圏。
絶対正義と絶対悪の果てることのない戦いの中で、キニスンは何度も何度も窮地におちながらもその最強の頭脳を駆使し、時には策謀を巡らし、時には超兵器を開発し、時にはアリシアの力を借り、逃げ騙し潜入し殺し懐柔し殲滅し、ありとあらゆる手段でボスコーンを打ち倒していく。
対するボスコーンも一筋縄ではない。何度打ち倒したと思っても、何度でも復活し、あるいは海賊行為で、あるいはおそるべき麻薬として、あるいは娯楽として静かに浸透し、銀河系に悪の根を広げていく。何度も何度も。
銀河の最初期から続くこのレンズマンとボスコーンの果てることのない戦いの果ては、やがて人類そして銀河そのものの運命に繋がっていく。
この最強のエンターテイメント性! そしてSFにのみ許されるスケール感! わくわく感! 正にSF読みで良かったと痛感する一作(全7巻)です。
□古橋秀之
というわけでこの流れで古橋秀之。なぜってそりゃーサムライレンズマンですよ。サムライレンズマン。幅広い作風を持つ古橋秀之がSF作家として超一流であることを分かりやすく示したサムライレンズマン。超絶面白いのももちろん、本家レンズマンを読むきっかけになったというだけでも感謝してもしきれない。
とはいえ元々SFな作家であったのは確か。
作者同士昔からの知り合いと言うこともあり、またファン層が近いと言うこともあり秋山瑞人と並べて語られることも多い感じがします。ただ残念なことに秋山瑞人がイリヤを通じて一般層に希求したのに比べ、かなり通好みに位置されちゃっている。
その理由としては小説を書くのが上手く、というかわりといろんなジャンルを書けてしまうために固定客がつきづらいのかなというのと、あと描写がアッサリしているからかなと思っていたりします。秋山瑞人なら1ページ書いちゃうようなシーンを1行で書いてしまう。僕としてはそれがまた強烈にクるんですが。
というのと後、作者の趣味なんだろうけど絶妙にポイントを外した球を投げているからかなと。それが一番でかいか。
でも「ある日爆弾が落ちてきて」は結構評判よかったし、これからは。と思っていたら電撃からは新刊が出なくなった。
もちろん、どんなレーベルでもでれば買いますが。
・ブラックロッド
デビュー作にして、僕がファンになったきっかけである作品。多分、中学の時に読んだのだと思う。そして多分一生彼のファンであり続けると思う。
科学と魔法が入り交じった世界、荒野にそびえ立つ積層都市ケイオスヘキサ。都市を衛る僧侶兵団ガンボーズ、ひょうきんな吸血鬼探偵、悪魔憑きの魔女をコピーした降魔局のバージニア、そして巨大な杖で犯罪者を威圧し秩序を守る公安の魔術師ブラックロッド。外連味たっぷりの舞台設定、キャラクターたちが織りなす、とびっきりに面白い”神”を巡る物語。神を作るための物語。
これを初めて読んで以降、色々な小説を読んできましたが、それでも今なおこの世界はとても魅力的に感じられる。それは多分、こんなにも荒唐無稽でありながらまるでケイオス・ヘキサが実在しているような空気を文章から感じられるからだと思う。
最強だ。
第一章「ブラックロッドは笑わない」をみてブギーポップ? とか思ったのも良い思い出。逆だ逆。
・ブラッドジャケット
ブラックロッドシリーズ二作目。
過去のお話。かつてケイオス・ヘキサでおきた吸血鬼禍。全市を覆う吸血鬼の災厄を食い止めたブラッド・ジャケットの隊長アーヴィング・ナイトウォーカーはいかなる人物だったのか。華々しい印象とは異なる静かでフラットで血なまぐさい物語。
残虐なこともいっぱいあるし、書けるように展開するのに、陰気なアーヴィング・ナイトウォーカーの目から語られるこの作品は、前作とは打って変わって静かな印象を残す。世界と自分の間に薄い膜を張って生きていた少年が人を殺し人を殺し人を殺し、少女と出会い、恐るべき吸血鬼と出会い、聖人と出会い、そしてどうしてブラッドジャケットが生まれたか。
音もなく燻る火のような情念。
・ブライトライツ・ホーリーランド
ブラック・ロッドシリーズ最終巻。
これを読んだときの衝撃をなんと言えばいいか。三作目となりより練られた言葉遣い、文体から来る圧倒的な存在感を感じさせる世界、変わらぬ疾走感に満ちた物語もそうだけれども、全二作を踏まえた上でのクライマックスは叫び出したくなるほど素晴らしい。
怒濤の如く燃え上がり、静かな余韻を残す傑作。
・タツモリ家の食卓
ブラックロッドとは打って変わった陽気で楽しく、そして完全に全力でガチなお茶の間スペースオペラ。ひょんな事から、地球に逃げてきたことから銀河を自由に動き回れる危険な生命体<リヴァイアサン>の子供を拾ってしまったことから、地球の運命をその背に負うことになってしまった龍守忠介! しかしまあ周りは焦り動き回るのに主人公はのんびり泰然と構え、その性格を持って犬を洗ったりするお話。
銀河スケールのお話のはずなのに、<リヴァイアサン>を巡る各種勢力のキープレーヤがみんなタツモリ家に集まってしまったがために、危険で一触即発ながらのんびりとしたお茶の間星間戦争が始まってしまう。
というとライトノベルレーベルだしヌルイSFかと思われそうだけど、いやいや、描写はガチだし、話は笑えるし燃えるしキャラクターはみんな経ってて面白いし、妹はカワイイし妹はカワイイし妹はカワイイし、とっても面白い。ジェダダスターツの過去など、ウルッときます。
何度でも読め、そしてその度に面白さが増す。好きすぎて困るぐらいだ。スペースオペラの新境地にして新たなる頂点なのではないかとすら思っている。
が、ただ唯一残念なのはようやく舞台が整った三巻で、続編が出なくなってしまったこと。
もはやあきら目気味ではあるが、コレの続編を出させない電撃編集部はみんな辞めてしまえ。
そしてどうせあとで単行本化されるだろうからと、短篇が載っていた電撃HPを買わなかったのはちょっと後悔している。
早川文庫がまとめて、出してくれないかなあ。
・超妹大戦シスマゲドン
偶然イモートロンシステムを拾った主人公は、愛する妹をイモートコントローラーで操作しながら、襲い来る地底掘削型妹とか邪神系妹とか航空系妹とか陸戦型妹とか108人の人海戦術型妹とかと争う大分頭のねじのゆるんだ作品。発売が一年ぐらい早ければもうちょっと話題になったかも。しかしタツモリ家の妹もそうだけど、この人の描く妹は無性にカワイイ。卑怯なぐらい。
そしてもちろん、それだけではない! 一巻であきれた人も二巻は読め! 絶対読め! そして驚愕しろ! 泣け! ラストを読んで歓喜に震えろ! コレが古橋秀之だーっ!
僕は最終章だけでご飯百杯はいけるぜ!
・斬魔大聖デモンベイン 軍人強襲
ダーレスのクトゥルフ神話をベースにした巨大ロボットモノ(!)のエロゲー(!!)という超色物のデモンベイン。ニトロプラスでなければ作った人の頭がおかしくなったかという組み合わせですが、どうしてどうして、直球で無茶苦茶面白い。因みに僕は発売日に講義を休んで買いに行きました。
それはともかく。
そんなデモンベインを古橋秀之がオリジナルストーリーで書き下ろすというので歓喜したのですが、最初の機神胎動がちょっと肩すかしでガッカリしてたんですが、二つ目できましたよ。きたこれ。古橋秀之の中でも一位二位に付けたくなるほどの傑作。
もとの作品を知っていなければそこまで楽しめないという点で薦められはしないけど、後半の億年を玩具にするような幾何級数的なインフレーション。そして絶句してしまう締めくくり。
いやー良いもん読みました。
□冲方丁
多分知ったのはピルグリム・イェーガーからだったと思う。ピルグリム・イェーガーを知ったのは伊藤真美から、伊藤真美を知ったのはラドゥーナというエロマンガ。エロくないけど、あんまり。エロくないけどいやらしい。
冲方丁は多作であと、よく自分で語る作家だなという印象。あとアニメやらゲームやら色々やっている。個人的にはわりと当たり外れが激しいなと思うんですが、それは色々実験的なことに挑戦しているからかなあ。最近の文体は実験的すぎてちょっとキツイですが。
おもしろいところでは後進を育てるためとして、マンガのように文芸アシスタントというのをやろうとしていたけど、どうなったんだろう。二年も前からブログも更新されていないし、頓挫したのだろうか。
・マルドゥック・スクランブル
コレは来たぜ! 心にびんびんに来たんだぜ!
少女娼婦としてただただ運命を受容する立場にあった主人公が力を得て、戦うことを学んでいき力におぼれることを知り、それを乗り越えて運命を打破する物語! きっと戦う少女大好きの山本弘も大絶賛に違いない。
マトリックス(一作目ね)を思わせるような格好いいな戦闘シーン。
そしてなによりカジノのブラックジャック!
えーっと。
■
だあ、疲れた。まだ色々あるけどやめー。
他だとアシモフとかクラークとかレナルズとか神林長平とかブラウンとかブラッドベリとかコード・ウェイナー・スミスとかニーヴンとかベスターとかアンダーソンとかレズニックとかヴィンジとかあたりが割と好きだけど、そろそろ書くの飽きた。
こう書いていると、なんというか、SF好きだったなあと。
そしてジャンル自体にはあんまり興味がなくなってしまったのだなあと。
なんかこー普通の人間ドラマな小説を読むようになってしまったなあぁー。一光年以内で話が終わる小説なんぞを! 過去にも未来もいかない! 脳みそを弄ったりもしない! うわ、堕落! 堕落だ!
と言うわけですっかり堕ちてしまったけど、たーのしければいっすね。