2009年07月03日

ドラえもん最終回

「わかったよ! ドラえもん!!」

「何がだい? のび太君」
「わかったんだ、この世界が一つだと云うことが! この世界を構成する全てのものが繋がっていると云うこと。僕とドラえもん、僕としずちゃん、ジャイアン、スネ夫、出来杉くんもみんな、みんな繋がり会っているんだ」
「それはほんとうかい?」
「そうさ! 死んだ動物が腐り土に帰り栄養となり、美しい木々を育てるように、誰かが出したウンコが下水に流れ何時か土に帰り、その土が小麦や米を育てる養分となり、それはパンやご飯となり、誰かに食されその肉になる」
「ふむん」
「そう、僕たちを構成する分子はきっと、かつて誰かを構成していたものだったんだ。誰かの小便が、大便が、あるいは寿命つきたあとの死体が、腐り流れ形を変え、この宇宙船地球号の壮大なリサイクルシステム、生態系の中で循環し、食べ物や飲み物に形を変え僕たちを構成している。僕たちはかつて人だったものを食べるんだ!
「飲み過ぎたサラリーマンが夜の十二時半にプラットフォームに吐いたゲロは駅員に掃除され流され消えてしまったように見えるけど、いつかは僕の右腕の肉になる
「僕の出したウンコが、しずちゃんの肉になり、しずちゃんの吐瀉物がジャイアンの肉となり、ジャイアンの小便がスネ夫の血となり、スネ夫のよだれがしずちゃんの血となり、いつかしずちゃんの寿命がつきたとき、彼女は僕の血となり肉となり僕たちは一つになる。
「そうやってお互いの血、肉、排泄物を与え、奪い合うことで僕たちは命を成している
「でも巨視的に見れば僕たちは存在している限り世界の全ての一部で、一時こののび太として組み上がり、やがて、世界に帰り別の人になるかもしれない。僕も、何時かなる人も、この地球という複雑且つ精巧なシステム=命を構成している一つの分子なんだ。酸素分子が時には二酸化炭素になってもまた酸素になり得るように、僕らは世界がある限り、決して死ぬことはないんだ!」
「嬉しいよ、のび太君。光り輝く24世紀から僕がこの汚く不潔で野蛮な時代に来たのは、君にその洞察を得て欲しかったからなんだ。文明を発達させる中で、人が水洗便所のなかに流してしまったこの世界の真実を、君は全て学んでしまった。どうやらもう、僕が君に教えられることは何もないようだ。
「お別れの時間だね、のび太君」
「ドラえもん、こんなに長く一緒にいたんだ。分かれるのはとても寂しいよ」
「僕もさ。そうだ、のび太君、最後に君にこれをあげよう。これが僕の最後の不思議道具だ」
「なんだい? この丸薬は」
「君がその薬を飲めば、君はもう二度と誰からも奪うことなくるんだ。この奪い、与え合う世界でただただ与えるだけの存在になることが出来るんだ。君は愛になるんだよ。
「さあ、飲んでくれ、のび太君。僕のこの時代での仕事を完了させるために、そして君の人生を完成させるために」
「ありがとう、ドラえもん。君の思いやりを忘れないよ」
「さようなら、のび太君。君の命に祝福を」