2009年09月01日

崖の上のポニョ

ポニョは魚の子であると人は言うが、実際はダゴンとハイドラの交合によって誕生した新たなる種族である。ナイ神父は見た目は人面魚とも言えるその種族を祝福してポニョと名付けた。しかし誕生した個体には名前はなかった。生まれて二週間後、名もなきそのポニョは崖の上の街に上陸した。深き者どもの長フジモトはそのポニョに刃向かい、それを殺そうとしたが、あえなく打ち倒された。ポニョはフジモトの半身を喰らうと、魚面人へと変態した。半身を失ったフジモトは街から逃げた。そしてそのポニョは深き者どもの上に立つ浅き者として信奉者を従えて二百年間崖の上の街に君臨した。しかし深き者をむさぼり喰らう生活に飽きたそのポニョは、伴侶となり得る者を探すために崖の上の町を出た。宗介は猿の子である。半機械人のフジモトの見せ物小屋で生まれたときにたまたま通りがかった三賢人がこれはSOUSUKEだ、と叫んだため、その名が付いた。しかしあまりに醜かったため見せ物にもにならぬと殺されそうになったところを、動物園勤めのリサが救い、ペットとして飼い始めた。リサは宗介を慈しんで育てた。宗介が三つになるころの春に全身の毛が抜けた。すると、その中から美しい子どもの身体が出てきた。リサは宗介を自分の子として育てることに決めた。宗介は非常に聡明だったたが、猿の子であることを知らぬ者は居なかったため、人々は彼に辛く当たった。14になるころ、職場で象を逃してしまった責任をとってリサが自死すると、もはや人の世に未練はないといって、リサが残した金の鍵を手に住み慣れた街を出た。宗介は虹の根元を探した。そこに鍵穴があるとリサが言ってたからだ。通りすがりの旅人に、虹の根元はどこかと聞くと、一ヶ月前は西で見たと答えた。しかし、虹の根元には無数の手が生えていて、人が追いかけると時速90kmで逃げるという。追いつくのはむりである。よしんば追いつけたとしても、虹は人をその手で殺してしまう。ほら見てみなさい、虹に殺された人だ。地面には無数のしゃれこうべがあった。そこは虹の通り道だった。宗介は虹を殺す方法を探すために旅に出た。山で出会った老師耕一の教えに従って修行をしながら宗介が荒野を歩いていると魚面人が倒れていた。あのポニョである。そのポニョは飢えていた。そのポニョは自覚していなかったがポニョは変態するとき生きている肉を必要とする。しかしそのポニョが変態しようとした場所は荒野であり生き物はいなかった。そのポニョは宗介に襲いかかった。一日に及ぶ激闘であったが、鍛え上げられた宗介はポニョを倒した。死に直面することで宗介の修行は完成する。しかし飢えているそのポニョを哀れと思った宗介は、自分の片腕を切り落としポニョに食べさせた。生きた肉を食うことでそのポニョは美しい少女に変態する。そのポニョは自らの肉を分け与えた宗介に恩義を感じ、宗介に従うことに決めた。それは宗介の血肉をわがものとし、変態したため、ポニョと宗介が交合可能となったからでもある。変態したポニョの肢体に欲情した宗介はそのポニョを受け入れ、二人は旅をする。虹の通り道を二年ほど進むと、遠くに虹が見えた。宗介は虹に気が付かれぬようポニョを先回りさせ、半径一〇〇メートル、深さ一キロの落とし穴を掘らせると、大声を上げて虹に迫った。虹は時速90kmで逃げ、落とし穴に落ちた。鍵穴に金の鍵を差し込もうとした宗介に、虹はもがきながら襲いかかってきた。虹の根元には人の手が百本、猿の手が百本そしてのこぎりのような無数の牙の突いた口がついている。人の手を38本、猿の手を43本、切り落としたとき、宗介は後ろから迫ってきたフジモトに差された。虹は弱った宗介を殺そうと大口を開けた。宗介の危機に駆けつけたポニョはかみ砕こうとする虹の口を両手両足で押しとどめる。人型になり力を失ったために身動きのとれないそのポニョにフジモトは積年の恨みを晴らそうといたぶるが、死にかけていると思った宗介に不意を突かれ地面に倒れる。宗介は血を流しながら立ち上がると、残った片腕をそのポニョに食べさせる。ポニョは巨大な口を持った生白い球体に変態すると、口を大きく開け、一飲みでフジモトと虹を喰らった。そしてポニョは空に舞い上がり、膨張し始めた。七色に光る泡の塊となり、更に膨張して膨張して直径十キロぐらいになると、突き抜けるような青色に変わり、唐突にはじけ飛んだ。そのポニョの無数の塊は全地球に広がり、一つ一つが新たなポニョになった。それは宗介とそのポニョの子どもである。生まれたポニョたちは人の世を打ち倒し、地球上に自分たちの世界を築き上げる。宗介はポニョが地球にひろがったところを見届けると、虹の根元にあった鍵穴を金の鍵で開け、影の降る世界へと旅立っていった。