2006年08月13日

日記ではなく、主に本の感想

  


「脳髄工場」小林泰三
僕がもっとも好きなSF作家の一人である小林泰三のホラー短編集が出ていたので、購入、読了。えげつない文章が何時も通り冴え渡ってます。表題作中で主人公の友人が人工脳髄を取り付けられるシーンとかなかなか気持ち悪い。

小林泰三のホラーは論理付けで一つ一つ人間の尊厳や価値などが幻想に過ぎないことを理解させ、読んでいる人間の価値観を否定するという点に怖さがある。自由意志、人間関係、客観的な幸福、人と動物の境目、そういった普通の物語では人の特質として賞賛されるようなものが、一歩引いてみたとき実は存在しないということを適切な舞台設定のなかで鮮やかに証明してみせる。
空間的、時間的な点で見たとき、人間が宇宙といったスケールの中で極小の点以下であり、その存在は有ってもなくても変わらないものであるといった、人間を相対化してみせるやり方は、わりとSFに特有なものではないか。普通のホラーとは一線を描く小林泰三の作品はまさにSF作家ならではないかと思う。そういう意味で当時最先端の科学による宇宙的な視点から、人間に絶対理解できないものの恐怖を描いたラブクラフトの作品群と小林泰三の作品が相性が良いのは当たり前といえば当たり前なのかもしれない。この短編集に収録されている「C市」は、良くできたクトゥルーものだったと思う。

もちろん「家に棲むもの」といった普通のホラーも十分怖いんですが。


神保町のヴィレッジ・バンガードに行ってみた。こんな所に有るとは最近まで知らなかった。店内がごちゃごちゃしているのはちょっと嫌ですが、そういう店なのでしょう。まあでも結構面白かったです。本買っちゃったし。良くできてるなあと思った。


「時をかける少女」筒井康隆
他の収録作品も含めてそんなに面白くない。が、映画は原作をしっかり尊重した上でふくらませてるんだなあと云うのはわかった。
あと、一昔前のジュブナイル小説といった感じがする。何となく少年探偵団を思わせる文体だし。感じというかそのまんまな気もするけど。ただ著者の存在が露骨に出てくるのは、読んでてどうにも引っかかる。


「トモネン」大場賢哉
同人作家の作品をまとめた短編漫画集、らしい。宙出版だし。どうでもいいけど、数年前まで、「ちゅうしゅっぱん」って読むんだと思ってた。ずいぶん直球で的を射ているなあと(偏見)。
宮崎駿とわんぱくとその他を読者が想像する適切な数で割ったような絵柄。親しみやすいし、上手い絵なんだけど、仕上げが鉛筆に薄墨なのでちょっと読みにくい。でも上手い。
内容も絵柄にあったホッとするようないい話が多い。愛と勇気は名前。