2006年10月13日

クリストファー・プリースト 「逆転世界」

「奇術師」で(僕のなかの)一世を風靡したプリーストの出世作のSF。一世を風靡した割には他の作品を読んでいなかったのは……なんでだっけ? まあなんか何か一冊買おうと本屋に行ったら目についたので買ってみました。
大当たり。

<地球市>という閉鎖都市で育った主人公が成人してギルドに入り、初めて都市の外に出てみた世界は、月も太陽も球ではなく、奇妙にゆがんだ世界だった。そして<地球市>もまた、奇妙な理由で年に36.5マイルずつ移動することを宿命づけられていた。ギルドで<地球市>を移動させる仕事に従事する主人公は、少しずつ世界の仕組みを学んでゆく。

という感じでちょっと都市と星を思わせる始まりなんですが、いや来た来ましたよ! 思っていたよりずっと凄い面白かったです。
何故都市は進まなければ行けないのか、なぜ太陽や月がいびつな形をしているのか。何故世界は逆転しているのか。といった設定も良くできていて面白いのですが、それより何より話し運びが上手すぎる。
主人公が都市を出るまで受けていた教育は、ほぼ現代地球のそれと同じであり、物語はじめでの状態は読者と変わりません。もし僕がそんな状況に遭遇したら驚くように、主人公も異様な世界に驚く。また、何故都市を移動させなければならないのかと言うことについて疑問を持つ。その疑問は簡単には解消されることはなく、長いギルドの見習い期間を通じて少しずつ溶けていく。しかし、疑問が一つ解けるごとに新たな疑問が、より大きな疑問が浮かび上がってきます。その疑問の提示の仕方がとにかく上手い。目の前に餌をぶら下げられて、ようやく食べられたと思ったらもうちょっと先にまた餌があり、という感じで意地汚い僕は鼻先を引きずられるように最後まで読んでしまいました。
何故都市を動かさなければならないか。最適線とは何か。過去に下るとは? そして過去で見るものとは? 未来では? そもそも世界は何故こんな形をしているのか?

なんか餌を全部食べたけど、ちょっと食い足りない、という感じはするけどこの語りの上手さは非常に素晴らしいものでした。